2010年12月08日

「あかつき」金星軌道投入に至らず。再挑戦は6年後

今年5月21日に打ち上げられた金星探査機「あかつき」は、12月7日朝より金星周回軌道投入へ軌道変更噴射が行われ、その軌道が解析されていましたが、「あかつき」の金星周回軌道投入は失敗に終わりました。

【12月8日11時からの記者会見メモ】

・軌道投入は失敗した。
・推進剤全てをつかってもリカバリーは不可能。軌道投入を断念。
・エンジン噴射時間が予定の数割。
・ 探査機自体は健全な状態。
・次回の軌道投入のチャンスは6年後。 

「あかつき」の軌道投入は失敗に終わりました。ただ「あかつき」自身に破損は認められないことから、次に金星に接近する6年後に再び軌道投入に挑戦するというのが記者会見の大意です。「あかつき」は金星軌道上で二年の観測を予定していたので6年後の軌道投入というのは機体の賞味期限的にギリギリなのですが、この辺は今後の解析+運用の工夫で変わっていくことと思います。「あかつき」は金星軌道向けの熱設計(いわば彼は”夏服”を着ている)をしているので、太陽を離れてしまうと結構厳しいかも知れません。

現在「あかつき」は3軸姿勢モードに切り替えが終了し高速のHGアンテナでの通信が行われています。なぜ噴射時間が予定よりも短く終了し更にセーフモードに入ってしまったのかその辺の詳細が分かりましたらまた追記します。

2003年前後に立て続けに発生した宇宙機のトラブルの数々を乗り越えて、昨今順風満帆であった日本の宇宙開発ですが、ロシアでもアメリカですらそうであるように何百億という税金が注ぎ込まれても事故やトラブルというのは起こってしまうものです。だからこそ宇宙開発というものは国が税金を投入して国策として進められていますし、それでも続けるのはそれだけの理由があるからです。いつの日か打ち上げに失敗しないロケットと絶対に故障しない人工衛星が出てくる日が来るのなら、その時は国が(開発から)手を引いて民間に全て任せてしまえば良いのでしょうが、残念ながら世の宇宙開発はまだまだ発展途上です。

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【12月8日20時30分の記者会見】
※その後の事故調査により一部の情報が訂正されましたので、記述を修正しています。

・「あかつき」の現在の軌道の解説。
・HGアンテナでの通信を確立。
 この日取得できた探査機のデータは28MB。
・噴射開始から2分30秒後に大きく姿勢を崩している。 
(↑後日訂正)
・姿勢変動とエンジンの因果関係は「解析中」 

「あかつき」からデータが大量に降ろされたので、少しずつ当時の状況が分かってきました。エンジン噴射から2分30秒後に「あかつき」が五秒で一回転というかなり激しい姿勢変動が起きたことが判明。状況としてはかなり良くない内容です。

101208 これまで空白の1時間の間のどの時点で「あかつき」がセーフホールドモードに入ったのかが注目されていましたが、これが噴射から二分三十秒後ということが判明。エンジン噴射中にいきなりぐるっと一回転してしまった とのこと。これは宇宙機にとっては本当に厳しい事態です。場合によってはエンジンを噴かしたままとんでもない方向に飛んでいく可能性だって有りました。しかし「あかつき」はエンジンを止めその急激な姿勢変動から立ち直りセーフホールドモードに入り、データレコーダーの記録を中止し(事故当時の記録を上書きしないため)、MGアンテナから姿勢の変動に強いLGアンテナに切り替えて地球に通信を送って来たのですからこれはこれで大したものだともいます。

トラブルの発生がエンジン噴射中であったことと、これだけ強い外乱が発生したことで事故の原因は軌道変更エンジンではないかとの憶測が流れていますが現時点ではあくまで推測でしか有りません。ファインセラミック製のエンジンノズルが割れたとしても電気の流れていない部分ではセンサでは分かりませんしモニタリング用のカメラもありません。もう一回噴かないと確かめようが無く、強力なエンジンなのでヘタに噴かすとまた姿勢変動を起こす可能性も有ります。そしてなによりも重要なポイントはこのエンジンに損傷があるのだとすれば6年後の第二回軌道投入は絶望的となることです。

一方でここまで話を聞いても、んーどうなのかという自分もいます。「あかつき」は「はやぶさ」が工学実験衛星(実験機)であったのに対し、惑星探査機(実用機)であり、かなり保守的な設計がなされています。その中で数少ない技術的新機軸がこのセラミック製スラスタです。500Nスラスタは熱に強くて丈夫な京セラ自慢のファインセラミックで出来ています。セラミックと言うことで何かあれば割れるんじゃないかと思うかも知れませんが対デブリ用の衝撃試験として、秒速4キロでガラス粒(0.3mm)をぶつけて強度を確認してますし、規定の噴射時間(720秒)を上回る1000秒での燃焼試験も行われています。素人が一見して「大丈夫なの?」と思う部分は、当然関係者も注意を払っているわけですから、個人的にも、500Nスラスタが原因か?という予想は現時点では見送りたいです。たとえば姿勢センサのエラーでもこういう事が起こる可能性もありますし。

そして「あかつき」の現時点での軌道も公開されました。「あかつき」は金星の内側を飛んでおり、金星が10周する間に彼は11周します。問題なのは設計よりも熱条件が厳しくなってしまったことで(鹿児島に行くつもりで服をもってきたのに、もっと暑いバリに着いちゃったという感じ)、これもじわじわダメージとして効いてきそうです。まあ燃料が凍らないのと電気に不自由しないのは良いことなのですが。

相模原での記者会見もとりあえずこれで落ち着くのでしょうか。軌道変更まえから不眠不休で「あかつき」のお守りにあたられている、中村先生をはじめとするプロジェクトチームの皆様、相模原に何日も通い詰め、あの会議室に何時間も詰めて情報を流してくださった、報道関係者の皆様、お疲れ様でした。

今回、記者会見の席でニコニコ動画の記者さんの「「あかつき」頑張れの声が中継に数多く寄せられています」との発言に、笑顔を見せた中村先生の姿が何よりの救いです。

それでは「あかつき」第二回軌道投入の日を待ち望みつつ、「あかつき」第一回軌道投入にまつわる更新を終わりにしたいと思います。「あかつき」チームの皆様、お忙しいとは思いますがお体ご自愛ください。

 

 

 

 

 



shikishima_ld at 12:41│Comments(0)金星探査機「あかつき」 

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